梅一輪の生存報告

初めましてこんにちは。いっしょうけんめい生きてます。

童話の花束のおはなし

 

こんにちは。初めまして。お久しぶり。

 

都内で弾き語り活動をしています

「梅一輪」と申します。

 

先日ENEOS主催の「童話の花束」の結果が出ましたが、

落選でしたので、応募した作品を掲載します!

 

相変わらず稚拙な文ですが、

大切に書いたお話、見てくれたら嬉しいです。

 

 

■僕と宇宙人

 

 ぼくは、夢のなかでエラという宇宙人に会う。エラは、自分のことを「不完全」だと言う。宇宙人たちの間で、エラがそう呼ばれているのだ。どうやら宇宙人には、ぼくやエラが持つ「心」みたいなものが、少しばかり足りないらしい。

 

 例えば、ぼくがぼーっと歩いていて、宇宙人が耕している畑を踏んでしまったとする。(ぼくの夢のなかでは、宇宙人は野菜を作ることができるのだ)

 

 ぼくは「あっ、ごめんなさい」と謝るけれど、宇宙人は、なにも言わずに畑をきれいにならす。まるで、ぼくのことなんか見えていないみたいに。

 

「ちぇっ、感じ悪いなぁ。」

 

 ぼくがエラに言うと、エラは困ったような顔で笑う。

 

「そうね。でも彼は、畑が荒れてしまったから、ただ、それを直しただけ。間違ってはいないのよ。」

 

「それにしたって、何か言ってくれてもいいじゃないか。」

 

「前にも言ったでしょう。彼らは、怒ったり、悲しんだりしないの。だって、必要ないんだもの。この世界では、それがアタリマエなの。」

 

「怒らないなんて、すごいよなぁ。ぼくなんて、お母さんに「早く宿題をやりなさい!」って言われると、宿題をやってないのに、怒りたくなっちゃうんだ。」

 

「それってとってもステキなことだわ。」

 

 エラは、猫みたいに金色の目を、ぼくに向けて言う。ぼくは「えっ?」と聞き返した。

 

「トモキの心の中には『宿題をやりたくない自分』や『うるさいなあ』って思う自分がいる。トモキは、自分の心の声が聞こえているから怒るんでしょう。声に出さなくても、それはトモキの大切な気持ちだわ。」

 

「そうかなぁ。ぼくってとっても悪い子な気がするけど・・」

 

 エラは、にっこり笑ってぼくのあとに続ける。

 

「宇宙人はね、心の中がとっても静かだから、さみしいわ。でも、トモキの心は、トゲトゲ怒ったり、ふわふわ喜んだり、シクシク悲しんだり、本当に面白いの!わたしは、それを見るのが大好きなのよ。」

 

 そんなことを言われるのは、はじめてだった。家では、怒ったりするとお母さんにおやつを抜きにされるし、学校で泣くなんて恥ずかしくって絶対むり!

 

 しまいには、こう。「男の子でしょ!」って、言われてしまうんだ。

 

 エラとふたりで歩いていると、遠くの空が、だんだんとうすいスミレ色になっていく。ぼくの世界の、朝が近いのだ。

 

「ねぇ、トモキ。あなたはよく知っていると思うけど、わたしは宇宙人の中では欠陥品なの。不完全、出来損ない。言葉を知れば知るほど、わたしを表す言葉は、どんどん出てくる。」

 

「そんなことないよ・・・」

 

 ぼくは、自分に言われているみたいな気持ちになって、悲しくなってしまった。

 

「宇宙人たちの中で、わたしだけ心を持って生まれた。周りと違うことが、苦しくて、悲しくて、心なんていらないと思った。でも、トモキと会ってから、笑ったり、喜んだり、驚いたり、自分の中に初めての気持ちが生まれたの。なんてステキなんだろう、って思ったわ。だから今は、落ち込んだりする気持ちも、わたしにとっては宝石みたいに価値があるのよ。」

 

 初めて会ったときのエラは、まるで蛇口を閉め忘れてしまったかのように、ぽろぽろと涙をこぼし続けていたのを、ぼくは思い出した。

 

「他の宇宙人たちは、こんなにステキなものを持っていないんだって思ったら、周りと違うことなんてどうでもよくなっちゃった!」

 

 エラは、両手を広げてくるりと回る。

 

「たまには、怒ったっていいじゃない。お母さんに怒ってしまうのも、大切なトモキの気持ちよ。トモキがとっても優しいこと、わたしはちゃんと知ってるよ・・・」

 

 だんだんとエラの声が遠くなって、ぼくは自分の部屋の天井を見つめていた。

 

 その日の夕方、ぼくがいつものように漫画を読んでいると、お母さんから、本日三回目の「宿題をやりなさい!爆弾」が飛んできた。ソファにずるずると沈み込みながら、ぼくの心のことについて考えた。そして出した結論は、こうだった。

 

「ごめん、お母さん。ぼくの心は今、宿題をやりたくないって言っているみたい。」

 

 ぼくの言葉を聞いて、お母さんはびっくりした顔をしていたけれど、そのすぐあとに、本日四回目の爆弾をぼくに投げたのだった。それでもぼくは、なんだとてもすがすがしい気持ちで、自分のことを誇らしく思っていた。